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痕跡を辿る。
(個展『Landscape-Landscope』に寄せて)
例えばこれはかつて
誰かのボディラインにピッタリ沿うよう作られた ジュエリーであったとして。
例えばこれを土の中から発掘したとき、
いつの時代の、
どういった技法を使って、
どのような文化に根付いたものとして…等
躍起になって用途や意味を考えるだろう。
今確認できる目の前のものから、
サインを探し、 痕跡を辿る。
少し前に祖母が認知症の末急死した。
明朗快活な婆様が、 認知という機能一つを奪われたせいでどんどんと人格を変えていく様は見ていて辛いものがあった。
彼女もどんどん己というものに自信をなくしていたところの旅立ちであった。
脚と耳の悪い祖父は叔父の家に行くことになり、
ゴールデンウィークを使って祖父母の家を整理するため、 東京から帰る。
あんなにこだわりの詰まった家が、 いつのまにかきちんと掃除ができなくなって所々に埃が溜まっていたり、
取捨選択ができなくなったのか、棚の中にポケットティッシュが山積みになっていたり。
雑然としたただの居住空間になっていることにやっと気づいた。
引き出し奥深くに仕舞われた着物やジュエリーを取り出す。
どれが洋子ちゃんにとって大事で、
どれが洋子ちゃんにとって何となく捨てずに取っておいてしまった、くだらない物なのか、
短い時間の中で見極めないといけない。
タイの土産屋でとりあえず買ったのだろう珊瑚の指輪。
結婚記念日にでも贈られたのであろう、着けているところを見たことがない高島屋のプラチナのネックレス。
気のない振りをして、全神経を目の前の、遺品と名付けられるようになった物に向ける。
痕跡を辿る。
気づけば私の中で『洋子ちゃん』は死ぬ間際の自分で自分のことがわからず怯えていた老婆でなく、
幼い頃キビキビと私の世話をしていた頃の姿に戻っていた。
ジュエリーを着けていた頃の『洋子ちゃん』はもっと若かりし頃だろうが、私の認知し得る洋子ちゃんはそこから始まっている。
これ以上は辿れないのだ。
辿れないのだ。


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